2026.01.26
藤沢和雄元調教師の金言
先日、藤沢和雄元調教師と久しぶりに食事をともにする機会があった。ご存じの通り、日本の競馬界に数々の革新をもたらし、多くの記録を打ち立ててきた伯楽である。東京サラブレッドクラブの創設期から力を尽くしてくださった恩人でもある。
2022年に定年制度により調教師を引退されてから、早くも4年目。現在は74歳になられたが、その矍鑠(かくしゃく)とした佇まいは現役時代と変わらず、歯に衣着せぬ“藤沢節”も健在だった。そのひと言ひと言は、今なお新鮮で、示唆に富んでいる。
例えば、こんな話をしてくれた
「装鞍所で暴れたり、新馬戦のパドックで騎手が跨った途端に立ち上がったりする馬がいますよね。でも、あれは馬が悪いわけじゃありません。私の厩舎にもそういう馬はいましたが、ほとんどは“慣れ”の問題です。運動の段階から腹帯を着けるとか、乗り運動を少し長めにするとか、そういう工夫をすれば、馬は頭が良いから自然と慣れてくれる。『この馬は装鞍のたびに暴れる』なんて言う人がいますが、何も対処していない人間の側の問題だと思っています」
また、こんな言葉も印象に残った。
「勝とうとか、まして勝たせようとか思ったらダメなんです。大事なのは、馬を大事にすること。新馬戦で勝たせたいとか、未勝利戦がなくなる前に何とかしたいとか、そうやって無理をさせても、いいことは一つもありません」
藤沢師は、そう痛感させられた自身の“失敗”についても語ってくれた。
「節内なら何度でも新馬戦を使えた時代には、『藤沢は二走目の新馬ばかり勝つ』なんて言われました」
現在の新馬戦は、文字通り“新馬のデビュー戦”として一度しか出走できない。しかし以前は、同一開催内であれば何度でも出走が可能だった。そのため、多くの馬は開催前半にデビューし、敗れれば後半にもう一度使う。いわゆる“折り返しの新馬戦”が当たり前だった。藤沢厩舎は、その二走目で勝ち上がるケースが多かったのである。
ところが2003年にルールが改定され、新馬戦はデビュー時の一度きりとなった。すると藤沢厩舎の管理馬は、この一発勝負の新馬戦を次々と制し、結果として10連勝という記録を打ち立てた。
だが、藤沢師はその事実をこう振り返る。
「10連勝はしたけど、その後に本当に活躍した馬は、ほとんどいませんでした。人間がいくら躍起になっても、馬には関係ない。勝たせよう、じゃなくて、良いコンディションをつくってあげれば、自然と好勝負をしてくれるし、その先でもちゃんと走ってくれる。このとき、身に染みてそう思いましたね」
年齢による定年制度でターフを去った伯楽。しかし、競馬の本質を突いたその言葉の数々は、今の競馬界にも、そしてこれからの時代にも、間違いなく活きるはずだ。藤沢和雄調教師という存在が残した“教え”が、これからも静かに、そして確かに受け継がれていくことを願わずにはいられない。
(撮影・文=平松さとし)
※無料コンテンツにつきクラブには拘らない記事となっております