2025.06.10
スポニチアネックス
【宝塚記念】ドゥレッツァ95点!究極の操縦性 2度目の海外遠征を経て立ち姿が大人に
◇鈴木康弘氏「達眼」馬体診断

父の日に手向けのグランプリ制覇だ。鈴木康弘元調教師(81)がG1有力候補の馬体を診断する「達眼」。春のグランプリ「第66回宝塚記念」(15日、阪神)ではドゥレッツァをベラジオオペラ、ジャスティンパレスと共にトップ指名した。達眼が捉えたのは9年前の同レースで故障、引退に追い込まれた父ドゥラメンテと同質の筋肉。9歳の若さで急死した父の無念を忘れ形見が晴らすか。
血は争えないといいますが、競走馬の体つきからその父を当てるのは容易ではありません。馬券を当てるより難しいかもしれません。産駒といっても血量の半分は母方のものだし、優秀な種牡馬は母方の特徴を引き出す傾向が強い。ただし、例外もあります。ドゥレッツァの馬体写真を10人のトレーナーに見せれば、おそらく10人とも父の名を当てられるでしょう。
体のつくりに一切の無駄がない究極の機能性。薄くても鋼のように強く、弾力性に富んだ筋肉。そんな特徴的な馬体を持っていた種牡馬は1頭しか思いつきません。10年前の春のクラシック2冠に輝いたドゥラメンテです。この産駒の筋肉も量より質。トモの筋肉は薄手でも、筋線維の密度が極めて高い。アスリートになぞらえれば“サッカー界最大のアイドル”デビッド・ベッカムや“バスケットボールの神様”マイケル・ジョーダンの若い頃を想起させるスリムなボディーです。
毛ヅヤは抜群。青鹿毛の被毛が初夏の日差しを受けて黒光りしています。体調もかなりいい。ドバイから帰国した後に楽をさせたのか、腹周りに少し余裕がありますが、今週の調教と美浦から阪神競馬場までの長距離輸送で引き締まってくるでしょう。
旅は人を成長させるといいます。馬も成長させる。昨夏の英国G1インターナショナルS(5着)に続く2度目の海外遠征(ドバイシーマクラシック3着)を経て立ち姿が大人っぽくなりました。昨年のジャパンC時は尾の付け根に力を入れて気負っていましたが、今回は尾先を悠然と流している。顔つきも集中しています。5歳の初夏を迎えて精神面の成長がうかがえるのは旅の成果でしょう。
父ドゥラメンテ(21年急死)のラストランとなったのは16年宝塚記念(2着)。レース後に競走能力喪失となるほどの故障が判明し、そのままターフを去りました。宝塚記念の開催日が例年より2週早まり、今年は6月3週目の日曜。「父の日」に父の忘れ形見が9年前の父の無念を晴らす…なんて時代劇もどきの話も耳にします。あまりにも擬人化しすぎですが、ドゥレッツァが父と同質の筋肉を備えているのは間違いない。人も馬も血は争えないものです。 (NHK解説者)
◇鈴木 康弘(すずき・やすひろ)1944年(昭19)4月19日生まれ、東京都出身の81歳。早大卒。69年、父・鈴木勝太郎厩舎で調教助手。70~72年、英国に厩舎留学。76年に調教師免許取得、東京競馬場で開業。94~04年に日本調教師会会長。JRA通算795勝。重賞27勝。19年春、厩舎関係者5人目となる旭日章を受章。