2025.05.15

コイウタ、VMを制しアメリカ遠征

今週末、東京競馬場では第20回目となるヴィクトリアマイル(GⅠ)が行われる。
 いまから18年前、第2回のこの牝馬限定GⅠを制したのが、コイウタ(美浦・奥平雅士厩舎)だった。
 オーナーは、歌手の前川清さん(名義は「前川企画」)。当時は厩舎の忘年会などでも顔を合わせる機会があり、何度か直接お話しすることもあった。非常に気さくで温かい方だった印象が強く残っている。そして、言葉の端々からは競馬への深い愛情が感じられ、なによりも厩舎で働くホースマンたちを心からリスペクトしていることがよく伝わってきた。
 その年のヴィクトリアマイルで、コイウタは18頭立ての12番人気という評価。単勝は6,030円という大穴馬だった。しかし、松岡正海騎手の手綱に導かれ、2着のアサヒライジングに半馬身差をつけて先着。1分32秒5の好時計で、見事に優勝を果たした。
 この勝利で、馬もオーナーも初のGⅠタイトルを手にしたわけだが、その勢いのまま、次なる舞台を海の向こうに求めた。
 当時、アメリカ・ハリウッドパーク競馬場(現在は閉場)では、アメリカンオークス(GⅠ)やキャッシュコールマイル(GⅡ)といったレースが開催されていた。現在も名称や開催地を変えて継続しているレースではあるが、近年は賞金が大幅に削減され、海外招致も下火になったことで、日本から遠征する馬はほとんどいなくなってしまった。
 だが当時は、オークス(GⅠ)に出走した3歳牝馬がアメリカンオークスへ、ヴィクトリアマイルなどで活躍した古馬牝馬がキャッシュコールマイルへ向かう、そんな流れが確立されていた。だからこそ、コイウタも太平洋を渡り、キャッシュコールマイルへの挑戦を決めたのだった。
 しかし、待ち受けていたのは数々の困難だった。まず、日本では考えられないようなことだが、直前になって負担重量が増量される事態に見舞われた。当初119ポンドの予定だった斤量が、突如123ポンドに変更され、約1.82キログラムも余計に背負わされることになったのだ。
 さらに、左肩の出方に特徴のあるフォームが問題視され、一時は出走取り消しを言い渡される事態にまで発展した。これには奥平調教師が「もともとこの馬はこういう歩様なんです」と強く主張し、実際にキャンターでの動きを披露。その熱意が実を結び、最終的に出走は認められた。とはいえ、当日の朝になってのこのドタバタ劇が、陣営と馬に与えた影響は決して小さくなかっただろう。
 結果は残念ながら9頭立ての最下位、9着という厳しいものだった。しかし、後に日本で前川清さんと再会した際、こんな言葉を聞かせてくれた。
 「海外で、自分の馬が走ってくれるなんて、それだけでドキドキして、本当に楽しい思いをさせてもらいましたよ」
 そのとき、ふっと見せた笑顔がとても印象的で、今でも鮮明に覚えている。
(撮影・文=平松さとし)

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