2025.09.05
凱旋門賞

今週末、フランスでは凱旋門賞(GⅠ)の前哨戦が行われる。牝馬によるヴェルメイユ賞(GⅠ)と3歳馬限定のニエル賞(GⅡ)、そして古馬のフォワ賞(GⅡ)で、舞台となるのはいずれも本番と同じパリロンシャン競馬場の芝2400メートル。このプレップレース、以前よりも1週早く開催される事になったわけだが、これによりまだ1カ月先の凱旋門賞がますます間近に迫った感が強くなった。
さて、そんなヨーロッパの最高峰決定戦には過去に幾多の日本馬が挑んで来たが、皆さんご存じの通り、その頂に上り詰めた馬はいない。日本の名馬達が負けるたびに言われるのが「馬場の違い」。曰く時計がかかり重過ぎる馬場は日本のスピード競馬に慣れた素軽い走りをする馬には合わない……と。
勿論この説があながち間違っているとは言わない。確かに日本とヨーロッパでは馬場の質が違うので、適性の差というのは多かれ少なかれあるだろう。
しかし同時に本当に馬場の差だけなのだろうか?と思う事象も多々ある。例えば舞台となるパリロンシャン競馬場の馬場は実はイメージほど重くないという点。ここでの騎乗経験も豊富な武豊騎手と一緒に馬場を歩いた事が何回かあるが、そのたびにレジェンドは次のように言っていた。
「道悪になるとかなり重くなるのは事実だけど、こうやって歩くとよく分かるように芝丈などはむしろ短いくらいで決して日本馬に向かない馬場とは思えません」
事実、この競馬場の1400メートルで行われるフォレ賞(GⅠ)の勝ち時計は例年速く、17年にメイクビリーヴがマークした勝ち時計は1分17秒05だ。そしてこれが抜群に速かったのかというと、必ずしもそうとは言えず、その前年のオリンピックグローリーも同じ17秒台で勝っているし、一昨年のケリーナの勝ち時計もまた1分17秒17という速いモノだった。パリロンシャン競馬場のこの距離は下り坂と平坦で構成されているため、速い時計になりがちなのは事実だが、それにしても速い。今週末のセントウルS(GⅡ)には東京競馬場のこの距離のレコードホルダーであるトウシンマカオが出走するが、彼の持っている時計でも1分18秒台なのだから、皆が考えているほどパリロンシャン競馬場の馬場は重くない事が分かるだろう。
また、凱旋門賞のカテゴリーである2400メートル戦は世界中でヨーロッパの馬が活躍しているのも無視出来ない事実だろう。北米を舞台に行われるブリーダーズカップ(以下BC)シリーズでも2400メートル戦のBCターフ(GⅠ)の勝ち馬はほとんどがヨーロッパの馬。香港の香港ヴァーズ(GⅠ)やドバイのドバイシーマクラシック(GⅠ)も、平坦コースで馬場の形状だけ考えればヨーロッパ勢より日本馬向きと思われ、実際に日本馬も勝ってはいるものの、優勝回数にするとその4倍くらいはヨーロッパの馬が勝っている。
日本の馬は強くなって久しいと言われ、それは紛れもない事実だとは思う。しかし、勝利するケースの多くは2000メートル以下の短、中距離戦で、ヨーロッパに乗り込み2400メートル戦のGⅠを制した馬は未だに1999年のエルコンドルパサー(サンクルー大賞典)1頭のみだ。
つまり、2400メートルという距離自体が、ヨーロッパのサラブレッドやホースマン達にとってはプライドを懸けた最後の砦といえるカテゴリーなのだ。
さて、そんな凱旋門賞に今年も日本から4頭が出走を表明している。その中に、ヨーロッパの誇り高き頂に手をかける馬がいるだろうか。注目したい。
(撮影・文=平松さとし)
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