2025.09.11
ナカヤマフェスタとセントライト記念

今週末、中山競馬場ではセントライト記念(GⅡ)が行われる。3歳馬たちが菊花賞を目指し、芝2200メートルの舞台でしのぎを削る。だが視線を世界に移せば、各地で凱旋門賞(GⅠ)へ向けた前哨戦が繰り広げられ、いよいよヨーロッパ最大の決戦が近づいていることを肌で感じる季節となった。
その頂上決戦の栄冠に、日本馬はいまだ手を届かせてはいない。だが、あと一歩、ほんのわずかの差で世界の頂をつかみかけた馬たちは確かに存在する。1999年のエルコンドルパサーをはじめ、2着に駆けた日本馬は延べ4頭。その中でも、2010年のナカヤマフェスタが残した衝撃は、今も競馬ファンの胸に深く刻まれている。
エルコンドルパサーと同じく二ノ宮敬宇調教師(引退)の手に託されたステイゴールド産駒のこの馬は、宝塚記念(GⅠ)で女傑ブエナビスタを豪快に差し切り、一気にその存在を世界に知らしめた。成績こそ安定しなかったが、ひとたび能力を爆発させれば誰も止められない。その走りは、まさに「瞬間最大風速」で観る者の心を震わせる個性派だった。
気性の激しさは常に隣り合わせだった。馬場入りを拒み、立ち上がり、時にはユーターンしてしまう。まるで扱い手の心と技術を試すかのように。
だが、伯楽は決して諦めなかった。調教に馬術的な要素を取り入れ、単調にならぬようこの厩舎としては珍しい坂路での追い切りを敢行するなど、あの手この手で“暴れん坊”の心を解きほぐした。そうした積み重ねの先にこそ、春のグランプリの優勝劇、そしてロンシャンでの歴史的快走があったのだ。
そして、驚くべきは、その未来を二ノ宮調教師が早くから見抜いていたことだ。ナカヤマフェスタは宝塚記念を勝ったから凱旋門賞に登録したのではなかった。宝塚記念を勝つ前、つまりGⅠ馬になる前に、凱旋門賞の登録を済ませていたのだ。勿論、無闇に登録を繰り返していたわけでもなく、二ノ宮調教師にとってはエルコンドルパサー以来となる特別な選択だったのだ。
「ダービーは4着に敗れたけど、その時の馬場は緩くて、ヨーロッパを彷彿とさせるようなそれでした。それでも苦にせず走る姿を見て、この馬ならロンシャンの芝をこなせるのではないか、と思いました」
その言葉が雄弁に物語るように、凱旋門賞の前年のダービーの頃からすでに彼の適性に光を見出していたのだ。
そして、そのナカヤマフェスタが3歳秋に制したのが、他ならぬセントライト記念だった。あれから15年。今週末の中山でゲートを飛び出す若駒の中に、未来のロンシャンで歴史を塗り替える存在がいるかもしれない。
繰り返しになるが、凱旋門賞の頂きに、まだ日本馬は立っていない。二ノ宮調教師も定年を待たずして引退してしまった。しかし、その夢に挑み続ける者たちがいる限り、挑戦の物語は受け継がれていく。セントライト記念の一戦に、その未来の扉がひっそりと隠されているかもしれない。そう思いながら今週末の中山に注目するのも、醍醐味の一つかもしれない。
(撮影・文=平松さとし)
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