2026.06.19
レッドレベンディス
「お! ユタカさんが勝つのを見に来たんですか?」
6月14日の阪神競馬場。武豊騎手がメイショウタバルとのコンビで宝塚記念(GⅠ)連覇を果たす5レース前。この日の第6Rの馬場入場を見ようとラチ沿いに立っていると、そんな声をかけられた。
声の主は庄野靖志調教師。この日のダート1200メートル戦に、管理馬レッドレベンディス(牡3歳)を送り出していた。
赤い勝負服をまとったレジェンドを背に、正面スタンド前から馬場へ入ったレッドレベンディス。順回りで1〜2コーナーへ向かい、返し馬へと移る。その様子を並んで見守っていると、庄野調教師がふと口を開いた。
「さっき武豊さんから『体重はどうですか?』と聞かれたんです。彼に体重のことを聞かれたのは初めてでしたし、そういう部分をあまり気にするイメージがなかったので、『おや?』と思いました」
レッドレベンディスが競馬場に姿を見せるのは、未勝利戦を勝った3月28日以来。約2カ月半ぶりの実戦となった。それでも庄野調教師は状態に自信をのぞかせていた。
「未勝利戦では毎回『次こそ勝てそうだ』という競馬が続いていて、どうしても使い詰めになってしまいました。でも一つ勝ったことで、今回は少し間隔を開けて、しっかり調整ができました。いきなりでも好勝負になると思っています」
武豊騎手とのコンビはこれで6戦連続。その流れで、指揮官は興味深いエピソードを明かしてくれた。
「武豊騎手が初めて乗った時、『この馬はすぐに勝ち上がれます』と言ってくれたんです」
それは言葉だけでは終わらなかった。勝ち上がるために必要な競馬を、レジェンド自らが馬に教え込んでいった。
コンビ結成前はハナへ行く競馬もしていたレッドレベンディスだったが、武豊騎手は控える競馬を徹底して覚えさせた。徐々に脚をためるスタイルが板につき始めると、3月28日の未勝利戦では鮮やかな差し切り勝ち。初勝利を挙げた。レース後、引き揚げてきた武豊騎手の言葉が今も忘れられないという。
「『ほら、ためれば切れるでしょう』と言われたんです。格好良かったですね」
武豊騎手が積み重ねてきた教育が、決して偶然ではなかったことは、この日の連勝劇が証明した。
レッドレベンディスは道中、中団やや後方を追走。12番枠からのスタートとは思えないほどロスなく内を立ち回り、直線では一切ブレーキをかけることなくスムーズに外へ持ち出された。追い出され、エンジンが点火すると豪快に伸びた。その末脚で前との差を詰め、最後はクビ差で差し切ってみせたのだ。
ところで、冒頭の体重の話には続きがある。武豊騎手から体重を聞かれた際、庄野調教師が「マイナス2キロです」と答えると、返ってきたのは短いひと言だったという。
「よしっ!」
レース後、その真意を本人に尋ねると、武豊騎手は笑みを浮かべながらこう説明してくれた。
「コロッとした体形なので、あまり増えていたら嫌だなと思ったんです。だから『マイナス2キロならいいぞ!』と思いました。そうしたら、やっぱり切れましたね」
鋭い末脚で決めた連勝劇。もしかするとレジェンドには、体重を確認したあの瞬間から、直線で炸裂するこの差し脚が見えていたのかもしれない。そして、その読みは寸分違わず的中した。レッドレベンディスの豪快な末脚は、武豊騎手が積み重ねてきた「競馬を教える力」の確かさを、あらためて証明する走りだった。
(撮影・文=平松さとし)