2025.06.12
スポニチアネックス
クロワデュノールをダービー馬に導いた間宮助手の“信念” 20年目に見た“最高の景色”
日々トレセンや競馬場で取材を続ける記者がテーマを考え、自由に書く東西リレーコラム「書く書くしかじか」は栗東取材班の田村達人(32)が担当する。1日に行われた「第92回ダービー」を制し、現3歳世代の頂点に立ったクロワデュノール(牡=斉藤崇)。ホースマン歴20年目でビッグタイトルをつかんだ担当の間宮辰徳助手(43)に迫った。

誰もが憧れる夢舞台のダービーで、22年に生まれた7950頭の頂点に立ったクロワデュノール。大歓声の中で、主戦の北村友を背に感動のウイニングランから帰ってくる人馬を迎えた担当の間宮助手は競馬の世界に入り、20年目で“最高の景色”を見た。
昨年6月の新馬戦から無傷の3連勝でホープフルSを制し、G1初制覇を飾った。単勝1・5倍と圧倒的な1番人気に支持された皐月賞はまさかの2着で初黒星。「あの時の100%につくることができたけど、まだ状態面が上がることは分かっていた。ジョッキーを含めて、みんな悔しかった。だけど一度負けて、もう失うものがなくなったし、ずっと悔しがっても仕方ない。すぐに気持ちを切り替えました」と振り返る。
ダービー当日。「誰が見ても分かると思うほど返し馬の1歩目、2歩目がまるで違いました」。本調子ではなかった昨年の東スポ杯2歳S、皐月賞は苦しそうにハミに頼るところがあったがダービーは1歩目から体の重心が起き、実に滑らか。その頼もしい後ろ姿を見て、不安はなくなった。 「(スタート前の)ゲート裏で(北村)友一にどう?ええやろ?と聞いたら“うん、1歩目からバランスが取れている”と話してくれて、これで負けたら仕方ないと思える仕上げ。友一も馬を信じて乗ってくれた」
自信を持って送り出したレースは好位から堂々と横綱競馬でねじ伏せた。21年5月に落馬で負った大ケガを乗り越え、ダービージョッキーになった北村友。ゴール後は騎手仲間から“おめでとう”と祝福の声が飛び交った。「ジョッキーらに握手されていた姿を見ても、やっぱり友一はみんなから好かれている。裏表がない性格で良くなかったら良くないとハッキリ言うし正直な人間だから。(勝てて)うれしかった」。20年マンオブスピリットで一緒にダービー(16着)の舞台に立った2人の絆は強い。
間宮助手は05年に栗東入り。自分のことは二の次で馬が好きという気持ちだけで仕事と向き合い続けた結果が今につながっている。「レースで馬を安楽死させてしまった経験がある。だから馬が死んだりすることが一番、嫌なんですよ。自分が少し変化に気づいてあげることで防げるケガもあると思うし、そこは最も大事にしています」。過去に辛い経験をしているからこそ重みのある言葉だった。
ダービー馬クロワデュノールの物語はまだ序章。未来は明るい。「まだ体の線が細いので。もっと馬体重は増えるだろうから、さらに良くなると思います」。これからも自分の信念を貫き、馬づくりに励む。
◇間宮 辰徳(まみや・たつのり)1981年(昭56)8月17日生まれ、静岡県清水町出身の43歳。幼少期から動物が好きで乗馬クラブで馬を触ったことがきっかけで競馬に興味を持った。05年栗東トレセンに入ってから五十嵐忠男厩舎、藤岡範士厩舎、石橋守厩舎を経て、斉藤崇史厩舎へ。23年福島牝馬Sを制し、重賞初制覇を飾ったステラリアに携わった。
◇田村 達人(たむら・たつと)1992年(平4)11月12日生まれ、大阪市城東区出身の32歳。高校卒業後は北海道新ひだか町のケイアイファームで育成&生産に携わった。